超音波内視鏡下生検

超音波内視鏡については別項で説明しましたが、膵癌などを確定させるために生検を行う場合があります。

比較的安全な検査ですが、癌細胞の播種(針が通る経路などに癌細胞が広がってしまうこと)の危険があります。報告例は少ないですが、胃などに播種した例が知られています。播種は少ないと主張される医師が圧倒的に多いですが、播種例は積極的に論文として発表されていません。また、播種が見つかる例は2年後など、膵癌の中では長期の経過の方です。膵癌のほとんどの方が1年程度で亡くなっているため、播種した例が分からないために、播種が見かけ上少なくなっているのではないかと思います。

癌細胞は腫瘍全体に均一に存在するわけではありません。生検で取れた細胞が癌の場合には確定しますが、取れた細胞が正常であっても、すべての部分が正常とはいいきれません。このため、個人的には、手術可能な状況で癌が疑われる場合には、生検なしで手術がよいと思います。もちろん、手術をしたら良性のものであるという可能性はありますが、生検が陰性だったけど癌であった場合や播種などの場合とどの結果が納得できるかという比較の問題になります。

その他、転移などがある場合や膵癌の可能性は低いので手術を避けたい場合は、診断を確定させるために必要な検査と思います。

膵癌(化学療法:切除不能進行癌)

手術が不可能な膵癌に対する、主な化学療法に以下のものがあります。

1.FOLFIRINOX

2.ジェムザール+パクリタキセル(アブラキサン)

3.ジェムザール

4.S-1

5.S1+ジェムザール

6.ジェムザール+エルロチニブ

日本膵臓学会より、膵癌についてのガイドライン(2013年、2015年改訂:日本膵臓学会)では、FOLFIRINOXとGEM+アブラキサンが標準治療とされていますが、いくつか問題があります。以下、もう少し詳しく説明します。

1. FOLFIRINOX

標準治療のひとつ

生存期間中央値 11か月前後

比較的副作用が強く、標準投与量を使用できないことが多いため、 日本では薬剤を減量して用いることが多い。このため、期待通りの効果が得られるかどうか、不明。48時間連続点滴が必要こともあり、手放しで第一選択の治療とは言い難い。

標準投与量:効果確認のための試験で使用した薬剤の量

2. GEM+アブラキサン

標準治療のひとつ

生存期間中央値 8.5か月前後

HRではFOLFIRINOXに劣りますが、副作用の少なさから標準療法とされています。

3. S1+GEM

生存期間中央値 10か月前後

GEMの成績を超えることが期待されましたが、比較試験(GEST studyなど)で明らかな差をつけることができませんでした。比較的、副作用が少なく悪くない印象です。

4. S1単独療法

生存期間中央値 9か月前後

日本発の経口剤。奏効率に優れる。

5. GEM単独療法

生存期間中央値 5-8か月前後

長らく標準治療法の一つでした。ジェムザール(GEM)を超えることが新規の薬剤の目標。

6.ゲムシタビン塩酸塩+エルロチニブ塩酸塩併用療法

GEMに比べ0.3か月生存期間を延長するという結果が出て承認された。わずか10日程度の延長期間と副作用を比べると、セカンドライン以後でしか使われないでしょう。

が、あります。切除不能と言っても、遠隔転移のあるなしで治療法が異なるため、詳しくは、次回に説明します。

超音波内視鏡(EUS)

超音波内視鏡(EUS

EUSは超音波装置を内蔵した内視鏡を用いて胃や十二指腸の病変の深達度や質的診断を行ったり、胆・膵・リンパ節などを体外式超音波検査より病変に近い胃や十二指腸から観察したり、生検を行う検査方法です。

EUSは10数年程前から実用化されましたが、一部の大学病院などで行なわれているのみでした。その後、徐々にその有用性が認識され、基幹病院には普及していますが、未だ一般的な検査とは言い難いのが現状です。胆膵疾患や消化管間質性腫瘍(GIST)などの消化管粘膜下腫瘍、リンパ節などの精密検査に非常に重要な検査で、EUSを行っていない病院は膵癌を専門とするとは言えない時代になりつつあります。200から250人の方の検査を担当すると、大体の診断ができるようになります。その病院で年に何件検査を行っているかを知れば、おおよその実力がわかると思われます。

EUSは高い解像度を持ち、造影CTなどではっきりと指摘できない膵腫瘍やMRIで検出できない小さな総胆管結石を描出することが可能です。また、画像だけでは確定診断が困難な病変に対して経胃または経十二指腸的に生検(EUS-FNA)を行い、組織学的な確定診断を得ることが可能です。

造影CTでは確認できなかった1cmの腫瘍がEUSで確認され、観察後の生検(EUS-FNA)で膵癌の確定診断がついたため、膵頭十二指腸切除術を行い、術後数年経ち、再発なく御元気な方もいらっしゃいます。

その他にも、例えば、今までは確定診断を得るために開腹生検を行っていたリンパ腫や術前の組織診断が困難であった粘膜下腫瘍などに対しても診断に十分な量の検体を採取することが可能となっています。